3月に読んだ本① ローマ亡き後の地中海世界 下
地中海を中心とした中世ヨーロッパとイスラムの歴史を記した下巻です。学校で学んだ世界史だと、このころは、フランス、スペイン&ドイツ、イギリスの王国の争いとイスラム世界はオスマントルコという形が中心となり、どうしても小国分裂のイタリア、地中海世界は隅に追いやられている観があります。しかし、ローマ・地中海といえば塩野七生先生による地中海を軸にした中世の歴史物語が展開されます。
それは、キリスト教連合艦隊とイスラム世界の海賊、そして海賊に率いられたオスマントルコの海軍との戦いの時代でした。
海軍の伝統のない陸軍国トルコは、海軍を創設し人材を育てるというよりも、イスラム教徒の海賊稼業のリーダーをヘッドハントして、自らの海軍とするという、ある意味悪党から正規軍TOPの道を開かせる形で、キリスト教と戦ったこと
キリスト教陣営側は、法王、ヴェネツィア、ジェノバ、フランス、スペイン&ドイツ、騎士団がキリスト教として共同して当たるかと思いきや、フランスとスペイン&ドイツの王家間の思惑や対抗心で共同歩調がとれなかったり、イタリア支配を望むスペイン&ドイツがヴェネツィアの弱体化を考えたり、また、経済的利益から宗教よりもそのつながりを重視したヴェネツィアの活動など、まったく一致団結ではない疑心暗鬼も渦巻く中、イスラムと戦っていく姿に、西洋世界においてインテリジェンスが発達したんだということも理解できました。
レパントの海戦(1571)で、スペインを中心としたキリスト教連合艦隊がオスマントルコを破り、無敵艦隊という名前が付けられ、今でもたとえばサッカーのスペインチームを無敵艦隊と日本では呼びあらわしていますが、塩野先生のこの本だと、レパントでの勝利の最大の要因は、ヴェネツィア艦隊の存在であり、それゆえ、その存在がなかったアルマダの海戦(1588)でイギリスに敗れ、無敵艦隊の名前も20年もしないうちに消えてしまうことになることも、中世史を地中海を軸に眺めてみるとわかりました。
また、ヴェネツィアという小国が、王国でもなく主要産業が通商で、大国に挟まれながら生きぬく方法について、柔軟な考え方(宗教にとらわれすぎない)や、インテリジェンスを重視した(イギリスが手本にしたとも)その姿勢に、ある意味アメリカと中国という軍事的にも経済的にも大国に挟まれた日本の生き残り方としても参考になるものだと思いました。
この上下巻を読み、逆にイスラム世界から見るとどう映るのだろうという興味がわきました。
by ebiken-chigasaki
| 2009-04-02 23:32
| 読書記録